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「snow word project」

真夜中のドライブ

車のスピーカーからはまたあの曲が流れている。
もう3ヶ月も入れっぱなしのCDだ。
僕の好きなジャンルの曲ではないし、もういい加減飽きているのだけれど
なんとなく入れ替えることができないでいた。

「ねぇ、話聞いてる?ねぇってば!」
「ん?聞いてないよ。」
「聞いてないのかよ!だーかーら、この曲だれの曲?」
「知らない。」
「知らないのかよ。そんなわけ無いだろ!」

本当に知らないのだ。
曲の名前も誰が歌っているのかも。

丁度3ヶ月くらい前、僕には付き合っている人が居た。
いや、付き合っていたと言えるのだろうか?
彼女の行動は予測不能で、ふらりと現れてはいつも僕を振り回していった。
夜中に豚の角煮を作らされたこともあるし、
テコンドーの練習相手をさせられてボコボコにされたこともある。
そんな彼女の言動についていけず、戸惑った表情を浮かべていると、
彼女は決まってこのせりふを言った。

「大丈夫だって。勢い勢い。」

今車の中で流れているこのCDは元はと言えば彼女が持ってきたものだ。
急に夜中に家に来て、今からこの曲を聴きながらドライブがしたいと言い出したのだ。
どこに行ったかなんて覚えていない。
覚えているのはドライブの道中がやけに楽しかったことと、
シートを倒してしたセックスが妙に息苦しかったことだけ。

今、彼女はどこに居るのだろう?
姿が見えなくなってからもう1ヶ月が経つ。
まぁ、元々神出鬼没だからまたふらりと現れるかもしれないし、
もう僕の前に現れることが無いかもしれない。

「ねぇ、さっきからぼーっとしてるけど大丈夫?お店で結構飲んでたでしょ?合コンつまんなそーだったもんね。」
「いや、平気だよ。ねぇ、ホテル行くのやめよう。行先変更。」
「は?どこ行くの?」
「ドライブ」
「お前絶対酔ってるだろう。今何時だと思ってんの?」

「大丈夫だって。勢い勢い。」


by sakaki
テーマ:音楽
  1. 2008/09/09(火) 21:56:05|
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深夜協奏曲弟2番

深夜3時、走る!!

何の為に走っているのか、そんな事はとうに忘れた。
走る。走る。
わかっている事があるとすれば、僕がメロスでは無いという事ぐらいだろう。
走る。
走る。走る。走る。走る。


景色が流れる。まるで音の無い退屈なインド映画の様だ。
夜が朝に押し上げられて疼き、たち込める朝露が生々しい緑の香りを飛ばす。
突然ひらけた海と街が見える坂を一気に下る。

ジェットコースターの様な快感を伴う急激な気圧の低下が身体を通過する。
こめかみが頭上の後ろへと引っ張られ、
鼓動と意識が車輪になった足についていかない。
足だけが前へ、前へ。前へ前へ前へ。
徐々に広がる歩幅がピアノの最終キーをこれでもかと叩く。

喉の奥から乾いた鉄臭い血の味がこみ上げる。
嘔吐しそうな胃の辺りを少しだけさすると、
それは徐々に冷たい氷の様な味に変化し、
やがては何もなかったかの様に麻痺してゆく。

徐々に鼓動が頭と近くなる。
胸から頭へ、そして身体全体が呼吸になる。
痛みや衝撃が消え去り、僕自身がリズムになる瞬間が訪れる。



悩んだ時は、走れば良い。
自分とは何かを思い出す為に、そして同時に忘れる為に、走る。
時折、どうしようも無い衝動が起きて、家を飛び出す。
何の為に、誰の為に、どうして描くのだろうと、
教科書どおりの漠然とした疑問が不意打ちのごとく襲う。
もっと沢山の別問題で埋もれていたとしても、
釣りの上手い僕は、最終的に何度でも
アホ面で一生懸命もがく僕にそっくりのこの大物をつり上げて、
そいつと対面してしまう。
恐らくは誰でも通過する儀式の様な洗礼から、
僕が逃げて逃げて逃げて逃げ続けている事が原因なのだろう。

そんな事は知ってんだ!ほおっておいてくれ!!

目の前の出来上がった皿をぶっ壊すパフォーマーになれない僕は、
夜の蛾の様に、滑稽だが美しい羽で、そこここにぶつかりながら
エクセレントな夜へと吸い込まれていく。



リズムになった僕の瞼の裏側に、カラフルな星をぶちまけた様な
チカチカと輝く斑点が溢れ、まるで白夢中だ。
紺を抜け、朝へと走る白い夜闇に
僕の頭の中でだけ賛美歌が答える。

瞳の切れ端から、恐る恐る、そして遂には墨絵の様に流暢に、涙が流れていく。
僕の闇を取り除く様に、拭っても拭っても止まらない。
ああ、何故に泣くのだろう。それさえもわからない。
いいや、わからなくて良い。知りたくも無い。
わかる事の何が偉いんだ!
くだらない。くだらないんだよ!!

わかっている事があるとすれば、僕がメロスでは無いという事なんだろう。
どうしようも無い切なさと、マスターベーションよりさらに上等な開放感に、
わずかに残る意識が、乾いた喉を潤す様に満たされていく。


神様!!


一気に空が明けた。
ハチミツの様な甘く白い太陽に、海面のプリズムが揺れる。
オーケストラは最後のシンバルを堂々と決め、あっと言う間に現実に還った。
何時間にも思えた高揚は一瞬で、ぼくは制作から逃げ出したただの美大生に戻る。

12時を過ぎたシンデレラの様に呆然と、
見窄らしい絵の具だらけのTシャツでうさんくさい臭い涙を拭う。
なんだか可笑しさがこみ上げて、ほどけかけた靴ひもを上手く結べない。

船の汽笛を遠くに聴きながら、
海のすえた香りを肺一杯につっこんで、僕は方向転換した。





end


by t/g

テーマ:音楽
  1. 2008/08/20(水) 14:51:25|
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love

暗闇の中に白く浮かび上がる画面を、ただぼおっと瞳のガラス体に映す。
マウスを握る右手はスクロールを忘れ、視線は画面を越えてどこか遠くへと旅している。

そういえば椅子の上で膝を抱える体制は若い頃からの癖で、
30をとうに越えた今でも、そのどこか情緒不安定な癖は治らない。
否、治すつもりが無い。これは癖ではなく「アイデンティティ」
そんな風に自分を甘やかす事が正しいか正しく無いかなんて、
私には世界一どうでもいい事だ。

仕事用のデータが開かれたまま、私は彼が撮影した旅先の写真を次々に開く。
数字の羅列ばかりが目立つ可愛げ無いデータはそれらに埋もれ、
画面の隅々までひたひたに世界中の美しい場所で満たされ、思わず溺れそうになる。
私は昔より少しだけ衰えた視力で、細めた眼の先の、
見た事も無い様な場所を水中散歩する。

ここはインド、それからタイ、マレーシア、スペイン、エジプト、
モロッコ、ハイチ、ここは北欧圏かな、トルコ、ロシア…
それから、ああ沢山過ぎてわからないよ、ドイツ、ここはメキシコ?
時折偶然に写りこんでしまった彼の靴や指先や髪を眺める。



彼は10年前メキシコに飛んだきり、日本に戻って来ていない。
もともと「連絡」という手段にとらわれない私たちだから、
今何処にいて何をしているかなんて、それこそ本当に神のみぞ知る領域だ。
本能で繋がっていると言えばむずがゆい程格好良いだろうけど、
私がそう言い切るには少し早い気がする。

昔はどこからか気まぐれに送られて来る写真の中に
「戦場写真」と呼ばれる様な、見るに堪え難いものも多かった。
内紛や飢餓、売春や疫病。環境破壊。
子供も大人も動物も植物も、向けられるレンズに身体こそ反応しているのに、
その視線はどこか虚無感が漂い、そして恐ろしい程に言葉を持たない。
訴えや拒絶する権利さえ暴力的に奪われてしまった彼らの
「無の意思」が写真に充満する。
物事には必ず裏表が存在し、
光と影がこの世のバランスをもたらしている事を彼は知っている。
それでも、やはり彼は世界に絶望していた。
同時に、撮る事と目の前の現実との狭間で、苦しみもがいているのだろう。
己がシャッターを押すその1秒に、何故自分は目の前の命を救えないのか、疑問を感じている。
もはや、自分の存在価値を問うレベルにまで、現実は彼を捕まえて離そうとしない。

彼の迷いや苦しみが一枚一枚に焼き付けられた写真を、
私は自分の部屋の壁一面に貼り続けた。
それだけが、唯一私が彼の為に出来る事だった。
近寄って、近寄って、少しでも側で、世界を共有する事。

それでも彼は撮る事をやめない。理由はわからない。わかれない。
私が創る事を辞めない様に、辞められない様に、
彼もあまりに自分の人生を愛しているのだろう。きっとそうなのだろう。



いつしか彼からの写真は途絶え、再開された時には既に6年の月日が流れていた。

私はその間に1度離婚していたり、独立していたり、
もちろん彼を忘れる事は1日もなかったが、
確実に別々の人生を歩み、確実に別々の与えられた運命とやらをこなしていた。
最後に彼を手放した日に覚悟していた事だったから、平気なはずだった。
それなりに幸せで、それなりに充実し、そういう日々に私は浸食されながら、
平気なはずを演じる事が、大人になった証拠なんだと、
呪文の様に言い聞かせ、バカな私は、何かを長い間待っている。




先に着いていた友人が、視線の先で手を振った。
昔とあまり変わらない横顔が、私をずっと幼くさせる。
変わらないねと少しだけ言葉を交わし、しっかりと互いの手を握る。
久し振りに握った友人の手は、なんだかすっかり親父くさくなって、笑えてしまった。
彼もそれに気がついて「なんだよ」という顔で口をぎゅっととがらせる。
その癖だけは、現役なんだね。
メキシコからのゲートの前で、私たちは手を繋いで彼を待った。




久し振りに送られて来た写真には、混沌を越えた、そういう景色が広がっていた。
写真を持つ手が、思わず震えた。
長い間距離があった彼と私が急速に近くになり、
平気な振りを纏った蛹がふ化しようとうずいている。

どの国のどこのどの部分とも撮れない光に支配された、神様の足下の様な場所。
息を飲む様な美しい大雨。高い雪山から登るハチミツの様な太陽。
バケツいっぱいの群青をひっくり返した様な水平線と真っ白な月。
それから、きっとあなたが愛した人、人、人。
底なし沼の絶望を、バカみたいに果てしない愛で塗り替える。
自分から関わる事を望んだ?あなたが?

そんな事、出来る様になったのね。

子供や、おじさんやおばさんや、犬に囲まれて、
少し老けて髪が伸びたたあなたの食事している写真があった。
6年ぶりの再会は写真越しで、
あなたは自分のやるべき事を運命から使命にシフトする。


泣けた。
きっともう、あなたはここへ帰らない。




ゲートのずっとずっと向こうから、彼が来るのが見えた。
靴を引きずる音だけで何処にいるかわかってしまう。
本能で繋がっていると、今なら私も言えるだろう。

頭の中が、真っ白に支配されていく。
何千枚もの写真がパラパラ漫画の様に捲られ、
フラッシュバックがあまりに高速過ぎて追いつけない。
いつの間にか友人の手を振り切って、走り出していた。

遠くから名前を呼ばれた様な気がした。
低くて、癖のある声で、名字だけを呼ぶ。



ぶつかる様な勢いで、彼を私の一生分抱きしめた。
腕がちぎれてもよかった。
ちぎれて、めちゃくちゃに裂けて、そのまま一緒に崩れ落ちて、
消えてしまいたいと叫ぶ様に心が求めた。





真っ白く、小さな箱。

くだけ散った骨は、なかなか見つからなかった為、
彼と認識出来る荷物の側にあったごく一部が納められた。
民族内紛のテロだった。
危険地域に指定され、一部のジャーナリストのみの滞在を許された国で、彼は死んだ。




私は小さな子供の様にそれを抱えて動かなかった。
私のものだと思った。
誰にも何処にも何にも渡さない。これは私のものだ。

追いついた友人が後ろから私と箱を抱きしめた。
きっと自分の子供を抱く様に、一番優しく抱きしめた。




end


by t/g

テーマ:留学生(ずれてる…)
取り敢えず海外からの帰還者でww

  1. 2008/08/08(金) 12:33:28|
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玉ねぎ 桃 野菜 薬

気がつくともう午後10時。
体のだるさを感じて布団に入ったのが5時前だからもう5時間も寝た計算になる。
体の調子は良くなるどころか頭や喉が痛み出した。
測ったわけではないがどうやら熱もありそうだ。

原因はなんだろう?
職場の隣の席の人が咳をしていたような気がする。
昨日窓を開けっぱなしにしたのも悪かったのだろうか?

喉の渇きを覚え水を飲もうと立ち上がったら足元がおぼつか無い。
どうやら思っているよりも体調は悪いらしい。
この分だと明日仕事を休むことになるのだろうか?

水を飲み一息ついたところで夕食をとっていない事に気がついた。
食欲は無いが栄養をとっておいたほうが良い気がする。
しかし、冷蔵庫を開けてみてもろくな物は入っていない。
食事の準備だけでも億劫なのに買い物に行く気力なんてあるわけが無い。
一人暮らしはこんなときに不便だ。

どうしたものかと立ち尽くしていると急に心細くなった。
実家に居たときはこんな気持ちになったことなんて無かったのに…

風邪を引くといつも母は玉ねぎのスープを作り、桃の缶詰を買ってきてくれた。
母曰くこれが風邪に一番良いのだそうだ。
この二つは普段の食卓へ登る機会が少ないので、
食べると病人になったんだなぁと感じたものだった。
思い出したらなんだか無性に二つが恋しくなった。
だけど、あいにく玉ねぎは切らしているし、缶詰は100円の鯖缶しかない。

ため息を吐き、冷蔵庫に入っていた野菜ジュースを手に取った。
この野菜ジュースは母が送ってくれたものだった気がする。
とりあえず何も採らないよりはマシだろう。
そういえば野菜ジュースと一緒に風邪薬も入っていた様な気がする。
今日はその二つを飲んでさっさと寝よう。

来週には大事な会議が控えている。
明日は仕方ないとはいえ、そう何日も休めないだろう。
早く体調を整えなければ。

そんなことを思いながら風邪薬を野菜ジュースで飲み干し、ベットへ倒れこんだ。

by sakaki
  1. 2008/07/22(火) 23:50:52|
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「ガチャン」

電話を切った後、ため息を一つついた。

なんか最近そっけないな…
今の電話だって、たった10分だけ。
最初は1時間、2時間は当たり前、一番長く話したときは7時間も話したのに…


僕と彼女が付き合いだしてもう半年が過ぎた。
だけど、恋人という存在になってから彼女と顔を合わせたことは一度も無い。
というのも、彼女は半年ほど前からニュージーランドへ留学しているのだ。

彼女が日本に居た頃から密かに思いを寄せていた僕は、
留学に行った彼女へマメに電話をすることで、彼女の気持ちを振り向かそうと考えた。
そして彼女の慣れない留学先での寂しさも手伝ったのだろう、
留学直後に見事、彼女を口説き落とすことに成功した。

しかし、恋人になったとはいえ相手は遠い海の向こう。
会いたい気持ちは募るばかりでなんとも消化しきれない思いを持て余す日々だった。

彼女はというと、留学生活に慣れるにつれ友達も増え、楽しい留学生活を満喫しているようだ。
最近は電話しても家に居ないことの方が多い。
たまに電話に出ても、英語学校の隣のクラスにカッコイイ男の子が居たとか、
学校帰りの現地の兄ちゃんにナンパされたとか、聞きたくも無いような話が多くなっていった。

いや、そんな話をしてくれる内はまだ良かった。
最近では、疲れてるだの今から出かけるだのとなんだかんだ理由を付けてすぐ切られてしまう。
今日は、日本語学校の友達と日本料理を食べに行くそうだ。


「あなたの声が好き。聞くとなんだか安心できるの。」

そんなことをつぶやく彼女の声が僕も好きだった。
僕らの関係を作るものは声だけだ。
だから僕らは普通の恋人が全身を使ってコミュニケーションする全てのものを、
声に求めていたような気がする。

僕は顔を見なくても声の調子で彼女の体調は機嫌は分かったし、
頭を撫でることができなくても、声の響きで彼女を慰めることができた。
彼女は声を聞くだけで僕が他の女の子と遊びに行ったことを見抜いたし、
背中を叩くことなく、僕を元気付けることができた。

だけど彼女はもう僕の声を必要としていない。
それはきっと僕らの関係の終わりを意味しているのだろう。
だけど、それを受け入れることのできない僕は、
受話器に伸ばした手を必死に押さえつけた。

終わり

テーマ:留学生

sakaki
  1. 2008/07/07(月) 00:00:00|
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